
1. なぜ、仕事は前に進まなくなるのか
大きなプロジェクトに関わっていると、「なかなか物事が前に進まない」という場面に、一度は直面すると思います。
誰かの判断待ち。
どこかの部署の検討中。
役員の返事待ち。
理由はいくらでも並びますが、結果として起きているのは、誰も責任を持たず、時間だけが過ぎていく状態です。
このような停滞は、個人の能力不足が原因で起きているわけではありません。
むしろ多くの場合、「動く理由が見えない」「踏み出すきっかけがない」ことで、全員が様子見の状態に陥っています。
ここで必要になるのが、仕事を“正しく進める力”ではなく、仕事を“前に進める力” です。
2. 推進力とは何か
ここでは、その力を「推進力」と呼びます。
推進力とは、単なる行動力ではありません。
声が大きいことでも、強引に人を引っ張ることでもない。
活動を前進させるために、自ら最初の一歩を踏み出し、周囲が動きやすい状態をつくる力。
それが、私の考える推進力です。

環境にいる
「自分の現場は、相当珍しいと思う。
他にはないくらい混乱している」

漂っている
「どうせ自分には決定権はない」
そう感じる状況も、確かに存在します。
しかし現場を見渡すと、決める人の周囲には必ず、判断を支える材料を整えている人 がいます。
推進力は、立場ではなく姿勢によって発揮されます。
3. 推進力は「踏み込む」ことで生まれる
これまで25年近く、プロジェクトや組織の現場に身を置いてきました。
停滞したプロジェクトに共通していたのは、
「誰が悪いか」ではなく、
「誰も最初に踏み込まない」ことでした。
自分が取ってきた行動は、「踏み込む」こと。とてもシンプルです。
仕事で「踏み込む」ための具体的な行動
- 全体の資料に目を通す
- 状況を自分なりに整理する
- 完璧でなくても仮説を立てる
- 説明できる形に落とす
- 小さなアクションを提示する
よろしければ、別の記事もご参照ください。『経験を武器に変える − プロジェクトの現場で学んだ処世術 − 』:”動いて、踏み込む”。
つまり、「決まるのを待つ」のではなく、決まるための材料を差し出す という動き方です。
ここで言う「踏み込む」とは、無謀に前に出ることではありません。
正解ではないかもしれない。
でも、このまま止まるよりは前に進みたい。
そう判断して、勇気を持って一歩だけ入っていくこと。
それが、推進力の正体です。
4. 若手でもできる「踏み込み方」
これは、特別な立場にある人だけの話ではありません。
若手であっても、
「正解かどうかは分かりませんが、こう整理してみました」
と積極的に自分の考えを投下するだけで、場の空気は変わります。
推進力は、
上手に質問する力でも、
強い主張をする力でもありません。
考えを共有し、議論の入口をつくる力 です。
動いている人のところに、人は自然と集まります。
無理に巻き込む必要はありません。
踏み込んだ一歩が、次の動きを呼び込みます。
5. 推進力の土台にあるもの
推進力がある人は、決して独りで戦っていません。
むしろ、人の力を借りるのがとても上手です。
その前提にあるのは、
- 相手を尊重すること
- 特性を理解すること
- 長所を見て仕事をすること
そして、
大きく構え、相手の目線に合わせながらも、自分の筋を通す姿勢です。
推進力とは、
強い人が前に出る力ではありません。
動きにくい状況の中で、
勇気を持って、一歩だけ踏み込む力 です。
おわりに|静かに流れを変える人へ
推進力は、特別な才能ではありません。
日々の仕事の中で、誰でも少しずつ鍛えることができます。
完璧を待たずに、踏み込むこと。
小さな前進を積み重ねること。
その先に、
気づけば信頼が生まれ、
プロジェクトが動き出している瞬間があります。
仕事を前に進める人は、
いつも静かに、しかし確実に、場の流れを変えています。
