早速ですが、緊張することがありますか?
本稿では、「緊張する自分とうまく付き合う」ことをテーマに、編集長流の方法をご紹介したいと思います。
編集長である私は、50代目前となった今でも、緊張する場面が結構あります。私を知る人は、「あなたは人前で緊張しないタイプだ」とおっしゃってくれますが、実は内心、緊張していることが未だ多いです。
以前の私は、膝が震え、喉がカラカラになるような激しい緊張に見舞われてしまうと、頭の中が真っ白になって、訳がわからぬまま時間が過ぎ、自分が発した言葉すら何も覚えていないことが何度もありました。自分は緊張しやすいタイプだと自認していました。
その時代と今を比較すると、確かに、割と緊張しがちな場面でも、落ち着きが増した気がします。自分のペースで過ごせていると思える時間も以前より増えました。
なぜ、もともと「緊張しい」だった自分が時間を経て変わったのか。過去を振り返りながら、その疑問に迫っていきたいと思います。
1. 緊張しやすい場面とその原因
私が必要以上に緊張してしまっていた場面は大きく2つあります。
1)近い未来に何らかのイベントが予定されていて、自分に発言する義務があるとき
「緊張せずに、うまく話せるかなあ」
2)発言する本番の場で、聞いてくれている人の顔の表情が曇った瞬間が見えたとき
「今の説明だと、全然伝わらなかったかなあ」
いずれの場面でも、共通の原因は、うまく話さなければいけないというプレッシャーを自分にかけすぎていたことです。本番前から不安に押しつぶされそうになったり、本番で空回ったりと、緊張が暴走して失敗するパターンです。
その裏には、「緊張を克服したい」、「自分をよく見せたい」、という欲求があるようです。
2. 緊張する自分とうまく付き合うための秘訣
長年の経験の中で、自己紹介やプレゼンの場を通じて、この緊張について考えてきました。結論から申し上げると、どう対策しても、緊張してしまう自分を変えることはできないことがわかりました。ただ幸運なことに、変えられないことに気づけたことが、大きな財産でした。今では、緊張する自分とうまく付き合うために、3つの秘訣(モットー)を設定しています。
秘訣1:「緊張しない自分」を目指さない
緊張してしまう自分を変えられない現実に気づいたとき、“それならば逆手にとって、「緊張しない自分」を目指すことはやめよう”と気づき、心が軽くなりました。緊張とうまく共存することで、暴走を抑え、程良い緊張感で臨むことができています。
秘訣2:一般人である自分に、他人はそこまで興味がないと考える
緊張しがちなコミュニケーションの場では、初対面、不慣れ、不特定多数といった相手が多く、自分は相手のことをよく知りません。一方で、先に述べたとおり、過去の自分は、本番で自分をできるだけ良く見せたくなる無意識な欲求に支配されていました。その結果、素の自分が、背伸びした(飾った)自分とのギャップについていけなくなり、緊張が暴走して頭が真っ白になるというメカニズムでした。
悩み続けたある日、過去に緊張の場で出会った相手と何年かぶりにあったとき、相手は自分の顔だけうっすら記憶があるだけで、場面も名前も覚えていませんでした。それがきっかけで、“相手も同じく、自分を知らない。そして、自分が思っているほど、相手は自分に興味がない。それならば、初めから素の自分のままで良い”と思えるようになりました。言葉遣いさえ間違えなければ十分と自分を励ましています。
秘訣3:”緊張することは悪いことではない”と言い聞かせる
過去の自分は、「カッコよくスマートにプレゼンできない人は一流ではない。よって、緊張するなどもってのほかだ」と考えていました。しかし今は、かなり大きな勘違いをしていたと思っています。
上記の考えは、「緊張することは悪いことである」、また、その発展形で、「緊張する人はカッコ悪い人である。」という命題が正しい場合に成り立つ理屈です(証明は省きます)。
そもそも、壇上で緊張している人を見て、それを揶揄したり、嘲笑ったりする気持ちになるでしょうか。冷静に振り返ってみても、私は昔からそんな気持ちになったことがありません。むしろ、緊張感を持って場に臨む気概を感じて、緊張している人を応援したくなることも多いです。
ただ、面接などのように、緊張してパフォーマンスが出せずに1回きりのチャンスを逃すのは避けたいものです。そのために、「緊張することは悪ではない」と考えて、緊張とうまく付き合うようにしています。中身が伝わることが重要と割り切り、真剣に準備して、良い緊張感に変えることに注力します。
3. 緊張と向き合うテクニック
通常時)「我思うモード」を意識する
自信につながる基本的な活動です。あらゆる場面で、自分がどう思うかを自問自答する習慣をつけることで、いつでも自分の意見が言える状態を維持することです。
「我思うモード」の詳細は、別の記事「我思うモードへの変換のススメ - 新しい自分への第一歩 -」1に記載しておりますので、ご参考いただければ幸いです。
通常時)自ら経験値を増やす
場数を踏むことで、経験を積む活動です。人前に立つ経験を積むことは、緊張とうまく付き合うための基本的な能力を向上させるために、やはり不可欠だと思います。いわゆる「場慣れ」です。本番で想定外の状況がやってきても、頭で考える前に、条件反射的に適切な振る舞いができるように、日頃から鍛錬しておく心がけです。もし、人前で堂々とした振る舞いをしたい願望があるならば、積極的に人前で話す機会を自ら増やすことが必要でしょう。私自身、今でも、会議などの場においては、上記の「我思うモード」との合わせ技で、自分から積極的に臆さず発言することを大切にしています。
発言して認められる機会が増え、それに比例して素の自分を出せる時間が増えた(自分を良く見せようと背伸びしなくなった)ことで、日常レベルでは変な緊張に支配されなくなった実感があります。
本番前)中身は入念に練り、頭の準備体操をする
この部分は、私自身が、緊張する自分とうまく付き合うための重要なポイントであるため、少々厚めに説明したいと思います。
別記事「社会を生き抜く「証明力」の極意」2で述べたように、命題・論理・説得の3段階をしっかり準備することが、自分の意思をブレなく伝えるために重要です。相手に期待する反応を具体的にイメージし、命題(発言して伝えたいこと)を定義します。その命題を果たすには、どういうロジックが必要かを冷静に考えておきます。
命題と論理に焦点を当て、話の骨組みとして、繰り返し頭に刷り込んでおきます。刷り込む内容は、具体的には、「当日は、〇〇に〇〇が伝わるようにしよう。ポイントはこの2つを伝える。結論から先で、エピソードは〇〇を膨らませよう」のレベルです。それ以上は、覚えるのも大変なうえに、覚えた気になっても、逆にその短期記憶に振り回されて、パニック状態になり緊張感が倍増するので逆効果です。
私は、準備をしっかりとした自分を褒めて、「準備万端。これで十分。」と自信をつけます。
緊張感があっても、頭が真っ白になることはまずありません。
逆に、準備ができていないと、当日の本番で、相手の反応が違った時に、その場しのぎの瞬間芸を考え始めてしまい、空回りします。もし、聴衆の表情が曇り、“わかりにくいぞ”とアピールしてくれている空気を感じたときには、「今の説明は少しわかりにくいかもしれませんね」というように、聴衆に共感するワンクッションを置いてから、命題と論理を崩さないような言い回しで説得の方法を変えることにトライします(運よく思いつけば)。それでも「納得」が得られない空気を悟ったときは、準備段階での命題の設定や論理を間違えたものと即断し、それ以上の無理はしません。途中の説明は省いて、言いたいことは何だったのかの意図だけを端的に伝え、別の挽回の場に委ねるようにします。間違いは誰にでもあるので、ミスを最小限に食い止めることのほうが、相手に安心感を与えられると思っています。
私の場合は、この、腰を据えた質の良い準備をして、自分に自信を持てるかどうかが、当日、無駄な緊張感に支配されるか否かを決める鍵となります。
本番前)言葉の準備体操を極力しない
上記のとおり、本番前に、頭の体操は入念に行う一方で、私は、言葉の準備体操は極力しないようにしています。言葉の準備体操とは、「改めまして○○と申します。私は・・・」のように、説明する言葉(セリフ)の一字一句を練習するスタイルのことを指します。
私がこのセリフをブツブツ言う練習を避ける理由は、練習と本番は空気が違うので、気持ちがこもらないからです。私は、準備された脚本のとおりに演技をする俳優ではなく、言葉で事実だけを伝えるアナウンサーでもありません。自分で決めた命題(テーマ)を、単に相手に伝えたいだけだからです。自分の言葉で相手に伝えるためには、ブレがなく自分の熱を伝える気持ちで臨むほうが、自然体になるうえ、先ほども申し上げた、記憶に振り回される状態に陥って緊張が増すからです。
過去に、緊張感にやられた多くの失敗は、実はこの言葉の準備体操を一生懸命やっていた時代がほとんどでした。若さゆえに自信が持てないことをカバーするために、本番さながらと言うお題目のもとに、命題や論理が生煮え状態で、「うまくしゃべる」練習ばかりしていました。事前準備に時間をかけるのは立派なのですが、時間を使う方向を誤っていたのです。
なお、大事なプレゼンテーションを控えているときに、事前にトークスクリプト(原稿)を準備することがあります。これは主に、時間制限のための作業です。緊張がない状態で、決めた命題と論理に従って、気持ちよくスラスラと出てきた文章で、どのくらいのボリュームになるのかを見極めるための大事な確認作業です。ただしこのトークスクリプトは、セリフを覚えるための台本ではないため、明確にプレゼンで実際に話す内容とは使い分けています。
緊張する自分を変えたいと強く思い、過去に悩んだ私の実体験をもとに、この緊張との付き合い方を言語化してみました。
同じく緊張に苛まれておられる方々の肩の荷を下ろすための、ご参考になれば幸いです。
今後とも、ALT+編集部をよろしくお願いいたします。
*冒頭のイメージ画像:グラフィックデザインツール「canva」にて作成